「おうし座 2つの物語」

冬の星空

2023年11月30日20時頃の東のさいたま市の星空


 2023年の11月30日の夜空は,冬の星空が昇ってくるところです。


 今日は、おうし座の物語を2つご紹介します。

 おうし座は冬の代表的な星座の1つで、一等星アルデバランとプレアデス星団(昴)、それにヒヤデス星団などから成る、美しい星座です。
そのおうし座の物語、1つ目は、エウロパをさらった牡牛の物語です。

 フェニキア王・アゲノールの娘エウロパの美しさは類稀で、その噂は天上の神々にまで伝わっていました。 ある日、エウロパはいつものように侍女たちと野原で遊んでいましたが、天上からこれを見ていたゼウスは、その美しさに心引かれて、1頭の大きな白い牛に姿を変えてエウロパに近づいていきました。
 そうとは知らないエウロパは、どこからともなく現れた大きな牡牛が、白く美しいうえに大人しく草に寝転んでいるので、おびえる侍女たちをよそに、その牡牛に近づき、そっとその背中に腰を下ろしてみました。 その途端、牛は立ち上がり、猛然と走り出したのです。
 エウロパはただ驚くばかりで、振り落とされないようと、角にしがみついているのがやっとでした。慌てる侍女達を尻目に、牡牛は野を越え山を越えて、海岸へ、やがて海の中へと突き進みました。

「わたしをどこへ連れていくの!」とエウロパが泣き叫ぶと、牡牛は人間の声で優しく答えました。
「こわがらなくてもいい。わたしは神々の王ゼウスだ。クレタ島でおまえをわたしの花嫁にしようと思う。」

 ゼウスは美しいエウロパが一目で気に入り、自分のものにしようと思ったのですが、でも、ゼウスにはヘラというお妃様がいます。そこで、ヘラに見つからないように、ゼウスは牡牛に化けてエウロパに近づいたのです。このときゼウスが変身した牛の姿がおうし座になったと言うことです。
ゼウスはクレタ島にエウロパを連れて行き、やがてそこで、エウロパはゼウスとの間に3人の子供を生みました。そのうちの1人はミノスといい、クレタ島の王様になりました。

ちなみに、ヨーロッパEuropeという地名は、エウロパが上陸したことから名付けられたといわれています。

 ところで、ギリシャ神話にまつわるおうし座の物語は、もうひとつ伝わっています。
それは、川の神イナコスの娘イオが牛の姿に変えられてしまったという物語です。

 イオは大神ゼウスの妻であるヘラの神殿に仕えていた女性ですが、やはり大変美しい女性でした。
イオはゼウスの目にとまり愛されることになりますが、ヘラはこれに気づき、イオを1頭の牛の姿に変えてしまいます。その上ヘラは、牛の姿に変えたイオを牛舎の中に閉じ込め、ゼウスと会うことがないようにと、体中に100の目をもつと言われるアルゴスという怪物に監視を命じました。

 ゼウスはイオを助け出したいのですが、ヘラの手前、自ら救い出すわけにはいきません。そこで、イオの父親であるイナコスを呼び、牛に姿を変えられてしまったイオを是非とも救い出すようにと命じます。
 イナコスが牛舎に行ってみると、どれも同じような牛ばかりで、一体どの牛がイオなのか皆目分かりません。その上、牛舎の中はアルゴスが見張っていて、どうする事もできません。アルゴスは、98の目が眠ってしまっても、2つの目だけは決して眠ることなく、ずっと監視し続けているのです。
 イナコスが困っていると1頭の牝牛が近づいてきて、足を使って地面に「イオ」と書きました。この牛こそが娘であることが分かったのでイナコスは喜びましたが、やはりアルゴスがいるので、どうすることもできません。

 イナコスはゼウスの元に戻り、事の次第を話しました。話を聞いたゼウスは、父親の悲しみにも心打たれ、再び、愛しいイオを救い出す手立てを考えます。やがて、ゼウスは伝令神ヘルメスを呼び、イナコスを助けてイオを救い出すように命じました。
  イオを助け出すことを命じられたヘルメスは、一計を講じて牛舎へと向かいました。 そこでは、アルゴスがいつも通り見張りをしていましたが、ヘルメスは「わたしが代わって見張りをしてやるから、お前はその間眠っているがいい」と勧めてみました。 アルゴスは休むことなく見張りをしているので、この勧めを受け入れ、ひと眠りすることにしました。が、98の目は眠ってしまっても、あとの二つの目だけは、やはり辺りをうかがっています。
 ヘルメスは困った様子もなく、ひとつの笛を取り出しました。
 この笛は眠りの神ヒュプノスが作った眠りの笛で、その調べはどんなものでも眠りにつかせてしまうという力をもっています。ヘルメスはこの笛で、アルゴスの、最後のふたつの目も眠らせることに成功しました。

 イオはヘルメスに救い出され、イナコスの元へと送り届けられ、やがて元の美しい姿に戻ることが出来ました。おうし座はイオが牛にされてしまったときの姿だとも言われています。

 また、100の目をもつアルゴスは、その後クジャクに生まれ変わったと、神話では伝えられていますが、成る程、クジャクの羽が100の目に見えるような気がします。

いかがでしたか。本日はギリシア神話から、おうし座にまつわる物語2つをご紹介しました。

著:Shiba

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